平安死帳字巻
巻六 照
「り、竜崎…」
松田は腰を抜かしたまま、金色に輝く鬼の目に怯えきった顔で竜崎を見上げた。
しかし陰陽師には鬼の怒気にも動じた様子は微塵もない。
ゆらり、と姿勢を改めて印を組み替えると、竜崎は低い声で祓詞を唱え始めた。
高天原爾神留坐須皇賀親神漏岐神漏美命
百萬神等乎神集閉爾集賜比神議爾議賜
此久依奉里志国中爾荒振留神等乎婆神問波志爾問賜比
………
国中爾成出伝牟天乃益人等賀過犯志介牟種種乃罪事波
天都罪国都罪許許太久乃罪山伝牟
「ぐ…おおお…お…」
竜崎が口の中で不思議な音韻を紡ぐにつれ、鬼は顔を歪め、苦しそうに身悶えし始めた。
怒りと憎しみで顔はおどろおどろしく歪み、もはやその姿は人ではなく、物の怪そのものであった。
「よせ！やめろ…あ、頭が割れる…」
せわしげに息を切らし、呻き、頭を抱え、鬼は地べたに膝をついた。
這い蹲り、獣のように涎を垂らし、神、神と呻きながらも、巻物だけは地につけぬよう頭上に掲げる。断末魔のその悲鳴を、松田は呆然として見つめた。
闇を引き裂くように虚しく足掻き続ける鬼に向かい、竜崎は静かな声で呼びかけた。
「照」
鬼が、は、と顔を上げた。一瞬、人の貌が戻った。
「おまえの名前だな。照。…おまえの母親がつけた。人の世を神仏の慈悲の心が遍く照らすように、と」
「…それがどうした」
「照。おまえの母を殺した男、私が裁こう」
竜崎は恬淡と、しかし確固たる口調で鬼に言った。
「必ずその男を見つけ出し、証拠をあげ、律に照らしてその男を罰しよう。おまえの母がおまえに望んだような方法で」
「…おまえに、それが出来るのか」
「約束しよう。天地神明に誓って」
鬼は巻物を力なく取り落とすと、両手で顔を覆った。その指の隙間からこらえきれぬように嗚咽が漏れる。
その姿はもはや、恐ろしい鬼の形相ではなかった。そこにうつ伏せているのは、襤褸のように痩せ衰えた、哀れな官吏に過ぎなかった。
竜崎は男の傍らに身体を屈め、指先をそろりと鬼の背中にかざした。その指の先から、不思議な白い光が輝きを放つ。
「還るがいい。おまえが本来行くべき処へ。おまえが元居た場所へ」
光がひときわ白く輝き渡り、松田はその眩しさに思わず目を閉じた。
眩しい光が薄れ、恐る恐る目を開けたとき、鬼の姿はもはやそこにはなかった。
も少し続きます。
*******************************
巻６まで来ましたか…
えらい間があいてしまいました。すみません。以前の話はカテゴリＳＳからご覧いただけます。ＴＥＸＴに収録しようかと思ったのですが、あと少しなので…最後まで書いてから移します。
祓詞が今回一番時間がかかってしまいました。ちょうどいい呪を見つけられなくて。結局大祓詞です。ネタ小説なので許してください…。
ものごっつ楽しみだー
最近オフ活動に比重が傾きすぎてオン活動がおろそかになってますね、すいません。
でもこの状況もせいぜい今年限りだと思いますので…今めいっぱい楽しみたい。
オフ活動を始めると、どうしてもオフの方に神経がいってまいます。締め切りとか締め切りとか締め切りとかイベントがあるからです、たぶん。追い詰められないと何もしない私。
締め切りもないのにネットで活発に活動できる人はスゴイ…とほんとに思います。
両方できてる人はまさに神の域に達しています。せんとういんさん。
オンもオフも、両方いいとこをうまく楽しんでいければ一番いいですね。
私の場合は、短い話・マイナーカプ・ネタとエ…絵はネットで。長い話・メジャーカプ・純情は本で。
という棲み分けになるのかな、と思ってます。
来週からもしかしたら友達がしばらく泊まりに来るかもしれないです。
そしたらまた更新遅れるなあ…。
陰陽師は出来ればＵＰしときたかったなあ…
彼は純粋すぎるのだ。
神と悪魔が同じ人間のなかに同時に存在することを、彼は許せないのだ。
どれだけ自分のなかの悪を否定したところで、人は神にはなれない。
うろおぼえですがT.E.ロレンスを評した言葉です（神坂智子）。
アラブの救世主と偶像化された彼が、新世界の神として人間の悪（というか怠惰？）を許せなかった月だと仮定すると、私の中で竜崎はその真逆です。
神と悪魔が同時にひとりの人間のなかに存在すること、むしろそれこそが人間の本質なのだということを認め、受け入れ、許すことが出来た。それが私の好きな竜崎です。
だから竜崎は松田さんのことも捜査本部のことも好きで、愛情をもっていたと思うし、月はうわべでは笑顔を浮かべつつ彼らを馬鹿にしてた、嫌ってた。月は誰のことも好きじゃなかった、信頼していなかった。自分だけが正義だと思ってた。竜崎以外は。
竜崎は性善説の人だよねーと言ったのは確かヨーコ★さんだったと思うけど、私もそう思います。
竜崎は人間が好きで、敬意をもっていて、信頼してた。
「松田さんが決めてください」
この台詞、松田を尊重し信頼してなきゃ言えないってことを、松Lスキーの皆様のお話を伺ってようやく気づきました。
うわあ…すごく萌える。えるかっこいい…！！！
竜崎大好き。
もう惚れちゃうよ…！（可哀想な子を見る見たいな目で俺を見るな！）